父が他界して1年後の夏、母の引越しを決めました。
レンジの中に温めたであろう冷凍食品が袋ごと入れっぱなしになっていたり、随分前にやめたはずのタバコを買っていたり─以前にはなかった行動が目立ち始めました。食事や火の元が心配になり、認知症の薬の管理にも限界を感じていました。母ひとりでカラオケに出かけた帰り、家に帰れなくなり、何度か警察や駅員さんから連絡が入ったり。
引越し先の施設は弟が候補を探してくれて、兄と私と3人で下見に行きました。
けれど母に伝えると「なんで?家あるのに、ここでいい」と反発されました。母はまだお洒落してカラオケにお出かけしてたので、母なりに快適に過ごしていたつもりだったのだと思います。年齢も施設に入るには73歳と若く、認知症以外は体も健康でしたから、本人は困っていないという言い分です。
認知症の人は自分が認知症だと認めません。人によると思いますが、初期は特に葛藤や抵抗で心理的な部分で大変です。
私自身もかなり葛藤がありました。家族がいるのに面倒をみてもらう…責任から逃れるようで、これでいいのかと…。兄弟はあまり迷わない様子でしたが、私だけが母に近い距離感で気持ちが揺れました。
施設はすぐ定員が埋まります。決断しなければと5月、母を連れて見学へ。母の不機嫌さや複雑な表情は、今も忘れられません。これまで過ごしたことのある土地にある、完成して間もない綺麗な施設でしたが、そんなことは関係ありません。
私が母の立場なら…と考えると今でも胸が苦しくなります。
引越し当日の出来事は鮮明に覚えています。次回、その日を綴りたいと思います。
つづく
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