第2回:母の変化ー財布紛失事件

母と私

母が認知症を発症して10年。思い返すと最初の変化は「財布紛失事件」でした。


誕生日に私が贈ったワインレッドの長財布。何度も「なくなった」と電話が鳴り、そのたびに私と弟で探し回る。冷蔵庫の裏や靴下の中からお札が出てきたときには、弟と「俺ら試されてる?」と笑うしかありませんでした。そんなことが何度もありました。

けれど、母にとって「財布」はただの物ではなかったのだと思います。父の事業失敗で苦労し続けた母にとって、お金は安心の証。だからこそ、認知症の入り口で最初に揺らいだのはそこだったのかもしれません。

あの頃は私自身も感情的になってしまい、母にきつく当たることもありました。けれど今振り返ると、母自身も「自分がわからなくなっていく不安」に耐えていたのだと思います。初期のころは気持ちの面で特にしんどいことが多かったように思います。

財布を探す日々は、今となっては母と私の「認知症の始まりの合図」。笑い話であり、切ない記憶でもあります。

母との思い出をこうして綴ることが、同じように歩んでいる方の小さな安心につながりますように。

つづく

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